任天堂 "驚き"を生む方程式
本屋でタイトルを見て、若干煽り気味かなと思ったんだけど、パラパラ読んでたらけっこう面白そうだったので読んでみた。DS、Wiiと当たりを飛ばして好調な任天堂の本。
- 作者: 井上理
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2009/05/12
- メディア: 単行本
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ある日突然、神の啓示が降りて、ゲーム人口の拡大だ、ということになったのではありません。僕らが作った結果の手応えが何か変だなと思い、何でゲームで遊んでくれないのだろうと考えて議論しながら試行錯誤を繰り返し、それでも、いよいよすごく危険な水準に来たなと感じた。それが、ちょうど僕が社長に就任した2002年頃なんです。
奇跡が起きたわけでもなく、虎視眈々と獲物を狙っていたわけでもなく、悩んで、試して、失敗した後の結果であるということ。
2003年夏、宮本は風変わりな携帯情報端末を岩田に見せる。当時サラリーマンを中心に普及しはじめていた、タッチペンで操作する「ポケットPC」に細工を施したものだ。
(略)
「あっ、これいいですねー」
「でしょ?」
思いついたらプロトタイプを作って見せる。このスピード感、とか、アイデアの具現化、とかいうありきたりなことが言いたいわけじゃなくて、本人達が純粋に楽しんでるし、無邪気だなあと感じた。それって大事だよなあ。
しかも岩田は「寝ている間は、絶対にファンを止めなきゃダメですよ。ファンの音がしたらお母さんが電源を抜いちゃうから」といい続けた。技術を知る人間であれば無謀に近い注文。だが、竹田以下の技術陣はやってのけた。
Wiiは、技術のロードマップをわざと外した製品。だからといって、そこに技術的挑戦がないことを意味しないんだなと思った。
「今日起こっているような現象を、『いやぁ、前からわかっていました』と言えたら格好いいんですけど、そんなことはない。方向は正しいという自信はあっても、こういうスピードでこういうことが起こるとは思っていませんでしたというのが正直なところです。ああ、物事が変わる時というのは一気に変わるんだなと、逆に感じているくらいで、世の中の皆さんが何をきっかけに大きく反応してくださるかというのはわからない」
正直だなあ。今も、不安でいっぱいなんだろう。
「私の名刺には、社長と書いてありますが・・・」。次に頭を指しながら「頭の中はゲーム開発者です。でも・・・」。今度は胸に手を当てながら言う。「心はゲーマー(ゲームファン)です」。
社長がこういうこと言ってくれると、ゲーマーはもちろんのこと、社員がほんとに嬉しいよな。
そんなせっぱ詰まった時に限って、いつも宮本が開発の現場にやって来る。そして、こう恐怖の必殺技を繰り広げた
「最初の村だけど、1日じゃ短いな。3日にしよう」
これ、Steve Jobsじゃないか。宮本氏は、デザインが専門の非プログラマ。なんというか、型にはめるつもりはないけれど、あるカリスマ的なアイデア師ががらりと変えてしまうというのは強いもんなのかな。
嫌われ者だったゲーム機を、社会は実用分野に役立て始めた。しかしそれらは、社会が自律的に行っていること。任天堂は協力するが、自らは運営に手を出さない。
なぜかと問うと、岩田はこう言った。
「だって、私たちは、娯楽の会社ですから」
...
「本来、娯楽って枯れた技術を上手に使って人が驚けばいいわけです。別に最先端かどうかが問題ではなくて、人が驚くかどうかが問題なのだから」
ゲームがハードの高性能を追い求めた結果訪れた今の時代に合った考え方なんだろうな。
「私自身はちょっとワクワクしているんです。今までは、どちらかと言うとクローズドな部分があると言われてきたビデオゲームの世界がすごくオープンなインターネットの世界につながることで、どんなふうに世の中の人たちに届いてどんなふうに人が使ってくれるのか」
...
「僕らは既に、ゲームというものが何なんだということに関して、あまり狭く考える必要はないんじゃないかというところに話がきている。何か人間が入力して、何か返ってきて面白かったら、それは僕らの仕事としていいじゃないですかと」
はてなと共同でサービスを開始した岩田社長の言葉。確かに、何かを楽しむ時って、それは複雑なものであることの方が少ないよな。単純だけど、だから面白い、というのは多そうだ。
という感じで、どこを読んでも面白い。
今、任天堂は勢いに乗っているわけだけど、ゲーム業界は天国と地獄が常に背中合わせ。自分達が作るものは、決して生活必需品ではないから、娯楽を提供することを意識して、人が笑顔になれるものを作り出していこうというスタンスのようだ。
まあ、当然だけど、任天堂が好きになる1冊だった。